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火植昭『Sensitive Rain』論 ー心情の変化に注目してー 大江健一郎

火植昭『Sensitive Rain』論 ー心情の変化に注目してー  大江健一郎

要旨

 火植昭『Sensitive Rain』について,三つのまとまりに分けて心情の変化を読み取り,考察した。

【キーワード】Sensitive Rain・団子の名残・your smile・Friday・繚乱桜

1 はじめに

1–1 研究の背景

 とある文芸部誌に彗星の如く発表されたSensitive Rain 。一見やや中二病を感じる詩であるが,話を聞くに連れて,この詩が深い背景を持っているということを知った。一体この詩は何を表現したかったのか。作者が紡いだ言葉の意味はどのようなものなのか。興味が湧いたため研究することにした。

1–2仮説と検証方法

 まず本文を三つのまとまりに分けて心情語を抜き出し,作者の背景も交えつつ心情の変化を読み取る。「狂おしく〜心躍るほど」を一つ目,「紡いだ言葉の束〜深くうつむく」を二つ目,「林道の狭間〜濡れないように」を三つ目とする。ただし,「心情語」というのは,直接的ではなく暗に心情を示しているものも含めるものとする。そして最終的には,一つの詩として繋げて考察していきたいと思う。

2 先行研究

 なし

3 本論

 まず,一つ目である。

 

  狂おしく燃え盛るこの瞬間が離れない your smile に散る

  吹き消して私もろとも今はまだ揺れるこの火が消えないうちに 

 

 「狂おしく燃え盛る」から熱い気持ちを読み取ることができ,さらに2行目から,「火」が「恋心」を表していると分かる。つまり,恋心が熱く燃えているのだ。その後本文は「愛」や「君の髪」などの言葉で続いてゆき,熱い恋が続いていることが読み取れる。また,突然「深淵と焦燥」という言葉が現れるが,これはネガティブな心情を表しているわけではないと考えられる。「ようやくはじまるね」と続いているからだ。深淵と焦燥を感じるほど恋がさらに発展しているのだ。つまり,一つ目のまとまりは,恋の始まりと発展を表現しているのだ。

 次に,二つ目である。ここで,「紡いだ言葉の束」という言葉に注目した。「紡いでいる」ではなく「紡いだ」と,過去形になっているのだ。不穏な空気が感じられる。その予想通り,次の行に「泣く 躍る 吐く」と続いている。そしてさらに次の行には「遥かな武士に同情しては深くうつむく」と続く。武士が何を表現しているのはか謎だが,恋人との関係が悪化したことが読み取れる。

 最後に,三つ目である。ここで「Friday」が重要な意味を持つ。一見心情を表しているようには思えないが,作者への取材により,13日の金曜日は恋人に振られた日であるということが分かった。つまり,この文章は恋人に振られた時のことを表しているのである。「最後の雨」というのは恋人がもう触れることがない自分の涙を表していると分かる。そして,題名「Sensitive Rain」につながるのである。

 ここまでで読み取ったことを踏まえて,全体を繋げて考察していく。一つ目では恋の始まりと発展を,二つ目では恋人と上手くいかない苦しみを,三つ目では恋人に振られた悲しみを綴っていると分かった。これは一度読むだけでは読み取れない。単純に恋が始まって終わったということを書くのではなく,極めて隠喩的に美しい言葉の数々を用いて描くことで作品に深みを持たせることに成功している。また,全体を通して見ると,二つ目と三つ目の間が2行空いているということに気づく。ここの部分だけ後から付け足したと考えると,本当はこんな結末になるはずじゃなかったという悔しさや悲しみを表していると考えられる。こんなSensitize Rainが持つ深さが現れている。

4 結論

 Sensitive Rainは,恋の始まりから終わりまでを美しい言葉で隠喩的に表現し,読み手に圧倒的な感動を与える傑作であるといえる。

参考文献

⑴火植昭(2021・9)「よしなしごと」文芸部 43–45頁

⑵23期生への取材

 

最後に

作者の方へ

 すいません,悪気はあったけどありませんでした。つい書きたくなってしまって。怒らないでください。

 

 

 

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