暗い夜の屋上に、セーラー服のスカートが揺れていた。
望遠鏡を覗けば心を落ち着かせられるから、と屋上と望遠鏡の使用を申請したら、担当の先生から先約がいると聞かされた。同級生はみんな幽霊部員だし、後輩は呼ばないと来ない。自分から使用申請をするのは先輩くらいだ。
誰が申請しているかを尋ねれば、予想通りの名前が返ってきた。もう春は終わりかけで、三年生の先輩は卒部が目前に控えている。先輩のことだから、一人で星空を見る機会を逃したくないのだろう。学校の設備はかなり整っているし、周りに学校よりも高い建物が少ない。先輩がいるとわかれば俄然私も屋上に上がりたくなる。先輩を邪魔するのははばかられるけれど、それはそれとして追加で申請させてもらうことにした。
夜になって、静かに屋上に上がる。ほとんど先生たちも帰ってしまって、残っているのは天文部の顧問だけだった。引き留めてしまって申し訳ないけれど、私が帰っても先輩がいるから同じだ。私が気に病む必要は無いはず。
辺りは真っ暗で、スマホのライトで足元を照らさないと階段を上れない。普段望遠鏡が格納されている箱のようなところは開いているけれど、肝心の先輩と望遠鏡が見当たらなかった。
箱の中を確認してみると、小型の望遠鏡が無くなっているから、もう一段上に持って上がったのかもしれないと見当をつける。梯子を上って上に向かうことにした。スカートが風に煽られて鬱陶しい。
「あれ、こんな時間に誰かな?」
「私以外いなくないですか、先輩」
上から降ってきた先輩の声に言葉を返す。梯子を上りきると、そこにはやっぱり先輩が立っていた。セーラー服のスカートが揺れている。満天の星空と相まって、先輩を囲む景色全体が一つの絵画のようだった。
「それもそうか。天文部なのに天文に興味があるのは私と君くらいだもんね」
先輩の長い黒髪が風になびく。普段はずっとポニーテールなのに、今日はハーフアップだった。ポニーテールが楽だからと、私がいくら別の髪型を提案しても変えなかったのに。いつもと違う雰囲気で、なんだか不思議な感覚。よく知っている先輩なはずだった。それなのに、この先輩はまるで知らない人みたいだ。
「もうそろそろここから空を見るのは最後になるからね。君もあと一年か。一年なんてすぐだよ」
愛おしげに望遠鏡を撫でた先輩は、私の知らない表情で微笑んだ。先輩のことをなんでも知っているつもりになんてなったことはないけれど、今日の先輩は私の知らない先輩ばかりで、どこか不安になってしまう。
「あの、先輩」
「どうしたの?」
「まだ、部活残ってますから。ちゃんと来てくださいね」
まだ少し余っている袖を握りしめて、先輩の目を見る。知らない先輩ばかりは嫌だから、意地でも私の知っている、私の大好きな先輩を取り戻したかった。先輩はきょとんとしていて、真意を掴み損ねた、みたいな顔をしている。
「やだなぁ、来るに決まってるでしょ? 私がせっかくの機会を逃すとでも思ってるの?」
クスッと笑った先輩は、私から視線を外して望遠鏡に向き直った。今日はよく晴れていて、空気が澄んでいる。絶好の星見日和だ。
特に何の意味もありませんが自作小説を冒頭に載せてみました。読んでくださった方はありがとうございます。無駄な時間でしたね。あはは。
はじめまして、哀叶と申します。あいとです。新規会員、新規ブログメンバー。特に面白いことは書けません。
果たしてこの後に著者紹介記事は続くのでしょうか。私で止まったら笑ってやってください。
冒頭でお察しかもしれませんが、ゆるりと小説を書いています。未だ受賞歴ナシ、ひよっこもひよっこです。哀叶としてはそこまでちゃんとやってないですが、こはる日和第二号にも二作ほど寄稿する予定です。
初心者なりに画像・映像など編集するかも。スマートフォン以外で基本何もやらないので全部iPhoneくんに頼りっきりです。
加入して間もないですがそろそろ勉強に本腰を入れねばまずい時期ですので(建前)、あまりブログは書けないでしょう。他にやりたいことも沢山ありますしね(本音)。
何はともあれ、これからよろしくお願いします。