我々の魂の中にある文藝を放棄してはならぬ

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発掘調査 by大江健一郎

 先日、引き出しを漁っていると、小学5年生くらいの頃に書いたお話を発掘しました。懐かしいような、恥ずかしいような……不思議な気持ちになりますね。

 でも、なかなかぞくりとしたので、供養も兼ねてここに書いておきます。ジャンルはややホラー。小学五年生とはいえなかなか侮れませんでした。苦手な方はお控えください。

 

隣の田中 作・大江健一郎(10さい)

 父が何の仕事をしているのか、ぼくは知らない。そこで、いつもより早起きして、父の後をこっそりつけてみることにした。ランドセルを背負っているため、少し動きにくいけれど、意外と気付かれないものだ。しめしめ。曲がりくねった道を進み、なじみある建物が見えてきた。なんと、それはぼくの通っている小学校だった。父は、ぼくが通う小学校の、しかもぼくのクラスに入っていったのである。誰もいないしんとした教室。物陰に隠れてそっと覗き込む。父は、忙しそうにカツラのようなものを被ったり、関節を変な方向に曲げて身長を低くしたりしていた。どんどん見覚えのある人物が完成してゆく。あれは、確か……。しかしぼくは、あまりの恐怖に、真っ赤なTシャツに描かれたニコちゃんマークが目に映ったまま気を失った。

「どうしたの、大丈夫?」

 クラスメイトに背中を叩かれ、ぼくははっと目を覚ました。どうやらあの後気を失っていたらしい。ごめん、大丈夫、と言って教室に入った。席につくと、隣の席の田中の真っ赤なニコちゃんマークが目に映った。

「田中くん、きみ……」

 田中は真っ赤なニコちゃんマークのようなニコニコ笑顔を浮かべ、「おはよう」と言った。

 

 

 

 

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